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論文や本の紹介(過去の履歴) |
2014年7月7日(月) No.61
Wood, G., & Wilson, M.R. (2011). Quiet-eye training for soccer penalty
kicks. Cognitive Processing, 12, 257-266. doi: 10.1007/s10339-011-0393-0
<コメント>FIFAサッカーワールドカップ2014ブラジル大会も佳境に入ってきました。決勝トナーメントに入り、延長戦でも決着が付かずPK戦で勝利が決まる試合も出てきています。PK戦の様子をテレビで見ているとキッカーは極限の緊張状態にある姿が伺えます。基礎研究的にも実践研究的にもプレッシャー研究においてサッカーのPK課題を取り扱うことは非常に意義があるといえます。今日紹介する論文では、サッカーのPKにおける正確性の向上(いかにキーパーよりも遠い位置にゴールを決められるか)やプレッシャー下でのPKの成功率の向上に、以前より紹介しているQuietEye(動作開始前に1点に視線を固定する行為)のトレーニングが有効か検討されています。QuietEyeのトレーニングを積んだ群(10名)は、トレーニングをしない群(10名)に比べて、非プレッシャー条件でPKの正確性が向上し、さらには勝利チームには約20000円が与えられるというプレッシャーの中でのQEトレーニング群10名vs非トレーニング群10名のPK戦を実施し、QEトレーニング群が勝利したことが報告されています。QEにおける視線の固定位置がゴールの上隅を見るという方法であるため、実践場面ではキーパーに打つコースを読まれてしまうことにも繋がるため、この研究で用いられているQEを実践応用することに関しては注意を払う必要があるように感じました。このような問題点は含みながらも、サッカーPKにおけるあがり克服法の第1歩となる研究のように思いました。
2014年6月30日(月) No.60
Wan, X., Nakatani, H., Ueno, K., Asamizuya, T., Cheng, K., & Tanaka,
K. (2011). The neural basis of intuitive best next-move generation in board
game experts. Science, 331, 341-346. doi: 10.1126/science.1194732
<コメント>先週に引き続き直観に関する論文を紹介します。スポーツを対象とした研究ではありませんが、将棋のプロとアマチュアが直観的(1秒間)に次の一手を判断する際の脳活動をfMRIを用いて調べた研究になります。直観と聴くと精神的かつ認知的な言葉であり、科学的には漠然とした印象を受けますが、直観的な判断に関与する脳部位を特定することで、直観的な判断にどのような神経機構が関わっているかを解ることができ、運動や認知スキルの熟達や直観を磨くにはどのようなことをすれば良いかの大きなヒントを得ることができる研究と考えられます。細かな方法は割愛し、この論文では、プロの直観的な判断には大脳基底核の尾状核が関与していることが示されています。この部位の機能特性としては、学習、記憶、フィードバック処理を司っており、プロ棋士は長年の訓練を基にこの部位を活動させる脳神経機能を獲得し、直観的判断を行うことができると捉えられます。運動機能には大脳基底核の被核が大きく関わっているとも言われており、認知スキルであるこの研究をスポーツにおける直観に直接当てはめることは難しいかもしれませんが、スポーツにおける直観的判断の重要性を考えるうえで、とても参考になる研究に感じました。なお、この研究は理化学研究所の総合研究センター認知機能表現研究チームにおいて実施・報告されたものであり、以下の理化学研究所プレスリリース(研究成果)のページに日本語による詳細な解説も行われいます。
<理化学研究所プレスリリース(研究成果)のページにリンク>
2014年6月23日(月) No.59
Navarro, M., Miyamoto, N., van der Kamp, J., Morya, E., Savelsbergh, G.J.P.,
& Ranvaud, R. (2013). Differential effects of task-specific practice
on performance in a simulated penalty kick under high-pressure. Psychology
of Sport and Exercise, 14, 612-621. doi: 10.1016/j.psychosport.2013.03.004
<コメント>最近個人的に「直観のスポーツ科学」というテーマに興味をもっています。この論文でも直観的な判断が重要であることが示唆されています。特に、当研究室のメインの研究テーマでもあるプレッシャー下での運動行動に対して直観が有効であることが実験的に調べられています。ビデオ映像によるサッカーのPKシミュレーション課題を用いて、3週間に渡って計800試行のPKシミュレーション練習を行います。いかに早くかつ正確にキーパーの動きを判断して、ボールを蹴る方向(キーパーがダイブする反対方向)を決めれるかという課題になります。そしてこの練習時に直観的な反応パターンを示している選手と、分析的な反応パターンを示している選手に事後的に分類し、スクリーンに80名以上の観衆を映し出した中でのプレッシャー条件で同じPKシミュレーション課題を実施させます。このようなプレッシャーの中では、分析的に反応する選手よりも、直観的に反応する選手の方が早く正確にキーパーが飛ぶ反対方向を判断できることが示されています。このような研究を一例に、早速今週の大学院の「体育学特論」の授業で「直観のスポーツ科学」の話をしようかと考えています。
2014年6月16日(月) No.58
野崎大地(2014)フィードフォワード制御器の構築.体育の科学,64巻6号,425-430.
<コメント>今年の「体育の科学」(杏林書院)3月号より、「身体運動の制御と学習―無意識のうちに実行される私たちの行動―」というテーマで、野崎大地先生(東京大学大学院教育学研究科)による連載解説が行われています。毎月、手元に雑誌が届いて、この連載記事を読むことをとても楽しみにしています。内容も私にとってはなかなか難しく、繰り返し繰り返し読んで、少しずつ理解を図っています。第4回となる今月号では、運動学習の汎化をテーマに、外乱が存在する中で正確性を要求するリーチング運動を課題にした1990年代からの研究を基に、結果のエラーを修正するためのフィードバック制御についてや、学習過程でフィードフォワード制御器を作り変えていくことが解説されています。また最後に、大脳の一次運動野の神経活動の活動頻度の増加が、このような運動制御器の構築に対する中枢神経メカニズムとして言及されています。
2014年6月10日(火) No.57
Collins, D., Jones, B., Fairweather, M., Doolan, S., & Priestley, N.
(2001). Examining anxiety associated changes in movement patterns. International
Journal of Sport Psychology, 31, 223-242.
<コメント>高所不安や競技不安によってキネマティクスがどう影響を受けるかを報告した論文になります。2つの実験が報告されており、実験1では50cmの低所と20mの高所を歩くときのキネマティクスが、実験2ではウェイトリフティングのスナッチ競技(バーベルを体に触れずに頭上まで上げる種目)を対象に練習時と試合時のキネマティクスが調べられています。関節間協応を調べるために各被験者の肩関節、股関節、膝関節間の動きの時系列での相互相関を描写し、図的観察を行うという方法を用いており、実験1では高所で関節間協応が低下(凍結)し、試行間の運動の変動性も小さくなることが示されています。しかし、実験2では実験1とは異なり、競技場面では関節間協応が高まり、試行間の変動性も大きくなることが示されています。高所不安と競技不安によって生じるキネマティクスの変化が質的に異なることを示していると言えます。その他にも、不安や心拍といった心理指標や生理指標も合わせて記録されており、高所や競技でこれらの変数に変化が生じなかった被験者はキネマティクスの変化も見られなかったことや、実験後のインタビューによる言語分析を基に、高所ではキネマティクスの変化に気づかないが、競技ではキネマティクスの変化に気づくことなども報告されています。課題への熟練度の違いがこのような認知面に影響しているのではという考察もなされています。10年以上前に発刊されており読み逃していた論文ではありますが、非常に大事なことを示している論文のように思いました。
2014年6月3日(火) No.56
Horslen, B.C., Murnaghan, C.D., Inglis, T., Chua, R., & Carpenter,
M.G. (2013). Effects of postural threat on spinal stretch reflexes: evidence
for increased muscle spindle sensitivity? Journal of Neurophysiology, 110,
899-906. doi: 10.1152/jn.00065.2013
<コメント>重心動揺、下肢筋のEMG、脊髄反射などの測定を基に心理的要素と姿勢制御の関係を調べているUniv. of Bitish Columbia(Canada)のSchool
of Kinesiologyのチームの研究になります。この論文では、3.2mの高所(実験1)ならびに地面の揺れ(実験2)が生じた中で立位姿勢を保つ際の脊髄反射機能としてHoffmann反射とTendon反射をヒラメ筋より記録し、ヒラメ筋と前脛骨筋の筋活動、バランスの自信や恐怖、不安といった心理指標、皮膚電気活動(EDA)といった生理指標も合わせて測定されています。実験2では、感情操作写真(IAPS)における快感情写真を用いて、覚醒を操作して姿勢を保つ条件も設けられています。これらの実験からの特徴的な結果として、高所や地面の揺れといった実験操作によって、Hoffmann反射に変化は見られない中、筋紡錘へのγ運動神経支配のTendon反射(アキレス腱叩打による伸張反射)活動は大きくなったことが挙げられます。これらの結果から、動物実験による先行研究で示されてきたことと同様に、ヒトを対象とした実験においてもα運動神経からの入力によるH反射よりもT反射の方が姿勢不安の影響に敏感であり、H反射とT反射は独立的に機能していることが考察されています。また実験2では、この結果に対して、感情写真を用いた覚醒の操作による修飾は見られませんでした。皮膚電気活動に大きな変化がなかったことが原因と論じられています。
2014年5月27日(月) No.55
Beilock, S.L., & Gray, R. (2012). From attentional control to attentional
spillover: A skill-level investigation of attention, movement, and performance
outcomes. Human Movement Science, 31, 1473-1499. doi: 10.1016/j.humov.2012.02.014
<コメント>「あがり」の原因について2001年に「顕在モニタリング仮説(explicit monitoring hypothesis)」を提唱し、多くの研究で引用されているSian
Beilock氏(Univ. of Chicago, USA)と、このページでの論文紹介において頻繁に登場しているRob Gray氏(Univ.
of Birmingham, UK)の注意焦点と運動パフォーマンスに関する共同研究論文になります。これまでのいくつかの研究で、高い運動パフォーマンスの発揮に対して、初心者は内的注意が、熟練者は外的注意が有益であることが報告されていますが、この研究ではゴルフパッティング課題を用いてこの現象を再確認するとともに、その背景にあるキネマティクスのメカニズムが検討されています。ハンディキャップ10以下のゴルファーと、ゴルフ経験のない大学生を対象に、実験1では、動作中に音の高低を判別させながら課題を行う(外的注意条件)と動作中に音が鳴った時のパターの位置を回答させながら課題を行う(内的注意条件)を設け、初心者は外的注意条件で、経験者は内的注意条件でパッティング成績が悪く、経験者のバックスイング中に音を鳴らす内的注意条件においてダウンスイングの振幅の縮小、バックスイングの運動時間の増加、ダウンスイングの運動時間の短縮、ダウンスイングにおいてピーク速度が出現する時間の早期化が示されています。また実験2では、バックスイング中もしくはダウンスイング中に音が鳴った時にスイングを止めるように教示し、スイングに注意を向けさせるという実験操作をし、熟練者のみストップを意識する条件ではパッティング成績が悪くなることを示し、さらには熟練者のみダウンスイングの振幅の縮小とダウンスイングにおいてピーク速度が出現する時間の早期化が生じることが明らかにされています。これらの結果からの考察として、ゴルフパッティング運動においてバックスイング動作は運動プログラミンも計算されながら遂行されるオンラインな運動制御を反映し、ダウンスイングは運動調整の利きにくいオフラインな運動制御を反映することから、熟練者の内的注意による運動パフォーマンスの低下は、オンラインな運動制御の阻害によって生じることが説明されています。プレッシャーや注意焦点と運動行動に関する研究パラダイムの中で、背景メカニズムを探ることを巧みに実験系に落とし込み、クリアな結果を出し、それを基に興味深い考察がなされているなぁ〜と色んな論文を読むたびに毎度関心させられます。
2014年5月20日(月) No.54
Colin, L., Nieuwenhuys, A., Visser, A., & Oudejans, R.R.D. (2014).
Positive effects of imagery on police officers' shooting performance under
threat. Applied Cognitive Psychology, 28, 115-121. doi: 10.1002/acp.2972
<コメント>「あがり」の克服に対する成功イメージの活用を実証した研究になります。66名の警察官に射撃シュミレーションを実施させ、敵がイミテーション銃を使う非プレッシャー条件と、リアルな銃を使用し、2回の痛み刺激を受けるプレッシャー条件で課題を実施させています。66名を成功イメージを描いた後に課題を行う群(EI群)、成功イメージとともに敵と対峙する際の感情や痛みのイメージも喚起した群(EEI群)、イメージの喚起を行わない統制群(Control群)の3群にランダムに振り分け、両条件で1ブロック4発(部屋に入り移動しながら敵に対して4発銃を撃つ)×4ブロックの射撃課題を行い、Control群はプレッシャー条件で射撃のヒット率の低下が見られませんでしたが、イメージの操作をした2群に関してはヒット率の低下は見られませんでした。感情生起を伴うイメージの想起が「あがり」の対処により効果的であるという結果は出ていませんが、成功イメージの想起が「あがり」の対処に有効であることは確実に実証されている研究になります。
2014年5月13日(火) No.53
An, J., Wulf, G., & Kim, S. (2013). Increased carry distance and x-factor
stretch in golf through and external focus of attention. Journal of Motor
Learning and Development, 1, 2-11.
<コメント>昨年よりHuman Kinatics(USA)よりJournal of Motor Learning and Developmentという学術誌が発刊されています。その巻頭論文になり、外的注意がゴルフの7番アイアンでのショットの距離を伸ばすことと、その裏付けとなるキネマティクスが報告されています。ゴルフの授業を履修している程度の初心者を対象とした実験ではありますが、100試行の練習時に、ダウンスイング時の体重移動に関する注意焦点の操作がなされており、外的注意群(左足で地面を押すことを意識)、内的注意群(左足に体重を移動することを注意)、教示なし群の3群が設けられています。練習の3日後に保持テストを行った結果、外的注意群は他の2群に比べて、距離が約30ヤードも多く飛んでいます。さらには、バックスイング終了時(トップ時)の骨盤と肩のラインの角度の捻転差を表すX-stretchという指標も外的注意群が大きく、ダウンスイング時の骨盤や肩、腕の回転角速度も外的注意群が大きいことが示されています。考察では、外的注意の運動パフォーマンスに対する正の効果に対する背景メカニズムとしてキネマティクスの観点から説明する研究が少ないため、この点をカバーできる研究であることや、全身を使用するダイナミックな運動課題に対して外的注意を促すシンプルな教示によっても効果が得られることがこの研究のオリジナリティーとして説明されています。第1巻であるためインパクトファクターが付いている学術誌ではありませんが、スポーツ科学分野においてインパクトファクターの大きな学術誌にも掲載可能な研究内容ではないかと感じました。
2014年5月8日(木) No.52
Gray, R., & Allsop, J. (2013). Interactions between performance pressure,
performance streaks, and attentional focus. Journal of Sport & Exercise
Psychology, 35, 368-386.
<コメント>近年、知覚運動結合、ならびにプレッシャーやスランプ下での運動パフォーマンスの低下と注意の関係について、スポーツ技能を題材に多くの論文を出しているUniv.
of Birmingham(UK)のRob Gray氏の研究になります。当研究室の研究内容とも関連性が非常に高く、個人的に注目度の高い研究者の1人です。この論文では、野球に取り組んでいる大学生を対象にバッティングシミュレーション課題を用いて、打撃好調、普通、不調の3群を設け、現段階での打撃の調子が、プレッシャー下でのバッティングパフォーマンスにどのように影響するのか、そしてその後の非プレッシャー下での打撃にどのように影響するのかについて検討されています(実験1)。結果として、好調な選手はプレッシャーの影響を受けにくく、普通の選手はプレッシャーの影響を受け、その後の打撃も不調に陥ることが示されています。また、逆に不調な選手はプレッシャー下でパフォーマンスの改善を示す割合が高く、それによってその後のパフォーマンスが改善し、不調の脱出の糸口になることも示されています。実験1の結果の下支えとなる心理メカニズムとして、注意焦点の影響が実験2では検証されており、自分の動作に対するモニタリングが不調やプレッシャー下でのパフォーマンスの悪さに影響していることが実証されています。非常に面白くかつ読み応えのある論文でした。
2014年5月1日(木) No.51
Freudenheim, A.M., Wulf, G., Madureira, F., Pasetto, S.C., & Correa,
U.C. (2010). An external focus of attention results in greater swiming
speed. International Journal of Sports Science & Coaching, 5, 533-542.
<コメント>注意焦点と運動パフォーマンスの関係を調べることを目的としたオーソドックスな研究になります。水泳のクロールを課題として用い、大学での水泳の授業履修者(中級クラス)を対象に、足の動きと手の動きを意識させるグループに分けて、それぞれ手足の動作を意識する内的注意条件と、水を意識させる外的注意条件で課題を実施させています(実験1)。実験2では教示なし条件も設け、内的注意によってパフォーマンスが低下している訳ではないことが確認されています。注意焦点と運動パフォーマンスの関係に関するこれまでの一連研究と同様な結果と言えますが、水泳のような連続スキルにおいても同様な効果が見られた点がオリジナリティーとしてアピールされていました。全身協応な課題において上肢と下肢のそれぞれに対する外的注意によっても同じように効果が得られた点も価値のある結果のように私は感じました。
2014年4月22日(火) No.50
Vine, S.J., Moore, D.L.L., & Wilson, M.R. (2013). Quiet eye and choking:
Online control breaks down at the point of performance failure. Medicine
& Science in Sports & Exercise, 45, 1988-1994. doi: 10.1249/MSS.0b013e31829406c7
<コメント>視線行動を中心にプレッシャー下での運動行動に関する論文を近年多く出しているイギリスのUniversity of ExeterのWilson氏を中心としたグループの論文になります。ハンディキャップの平均が3.6±2.8というかなり上手なゴルファー50名を対象に1.5mのパッティングを連続して成功させる数を競う課題を用いて、その時の視線行動が測定されています。優勝者には50ポンド与えられ、他者比較も交えたプレッシャー状況でミスをしてしまった最後の1試行と、その直前の成功した1試行と、一番初めに成功した第1試行目の3試行を抽出し、統計解析が行われています。プレッシャーによってQuiet
Eye Durationが短縮し、ミスに繋がることはこれまでの多くの研究で周知の事実となっていますが、この研究では、パッティング動作前、パッティング動作中、パッティング動作後の3局面分割し、各局面におけるQuiet
Eye Durationが分析されています。そして、動作前のQuiet Eye Durationにプレッシャーによる変化は見られませんでしたが、動作中や動作後のQuiet
Eye Durationにプレッシャーによる短縮を確認したことがオリジナリティーな結果といえます。この結果から動作中のonlineのmotor
controlに対してプレッシャーが影響し、運動パフォーマンスの低下に繋がることが考察されています。
2014年4月15日(火) No.49
Buchanan, T.W., Laures-Gore, J.S., & Duff, M.C. (2014). Acute stress
reduces speech fluency. Biological Psychology, 97, 60-66. doi: 10.1016/j.biopsycho.2014.02.005
<コメント>心理的プレッシャーがスピーチパフォーマンスに及ぼす影響を調べている研究になります。人前でのスピーチ、面接、アナウンサー・解説者・俳優・芸人などのスピーチを職業としている人などなど、現実場面を考えても興味のそそる研究のように思います。この手のテーマの論文を初めて読みましたが、発話数、言葉につまる数といったスピーチパフォーマンス、覚醒水準や内分泌系の生理面、不安や感情といった心理面を調べている多くの先行研究があるようです。この研究では、買い物中に万引き犯に間違えられて警察官や店のマネージャーに弁明をするというストレス状況におけるスピーチ課題(Trier
Social Stress Test)と、旅行の記事を読みそれを要約して説明する非ストレス状況におけるスピーチ課題(placebo Trier
Scial Stress Test)を実施させ、スピーチパフォーマンス、快-不快感情、心拍数、コルチゾールといった指標を調べています。様々な結果が得られていますが、顕著でオリジナルな結果としては、話の間合いとも言えるポーズ時間がストレス状況では有意に増加し、この指標と心拍数およびコルチゾール値に有意な正の相関が見られています。このようにストレス状況下におけるスピーチパフォーマンスと生理指標の関連性にまで踏み込んだ報告はないようで、この結果からストレス状況下において最適なスピーチを行うためには、生理的な側面の調節が必要とも考えることができます。研究の背景や流れに関しても、当研究室が行っている心理的プレッシャーとスポーツパフォーマンスの研究に似ているなと感じました。
2014年4月8日(火) No.48
小幡博基(2009)立位姿勢における足関節底屈および背屈筋の神経制御メカニズム.国立障害者リハビリテーションセンター紀要,30,39-42.
<コメント>当研究室では、TMS(経頭蓋磁気刺激装置)による運動誘発電位(MEP)や、経皮的電気刺激によるH反射の記録を行い、下肢筋であるヒラメ筋と前脛骨筋を支配する高次や低次の中枢中枢神経機構に対して、プレッシャーや感情といった心理的要因が及ぼす影響を調べる実験に取り組んでいます。このような研究の実施や得られた結果の解釈に対しての生理学的背景を調べているなかで読んだ解説論文になります。立位と仰臥位・腹臥位で、ヒラメ筋と前脛骨筋からH反射、伸張反射応答、TMSによるMEPを調べた研究がレビューされており、それらの結果を基に、立位姿勢に特徴的な神経機構が説明されています。
2014年3月24日(月) No.47
Yamada, T., Demura, S., & Takahashi, K. (2013). Center of gravity volocity
during sit-to-stand is closely related to physical functions regarding
fall experience of the elderly living in community dwelling. Health, 5,
2097-2103.
<コメント>同僚の山田孝禎先生の論文を読む機会がありました。この論文では15名の高齢者を対象に、転倒経験の有無(無し群、1回のみあり群、2回以上あり群)によって3群に分けて、その3群における日常生活活動検査(ADL)、転倒リスク検査、10m歩行時間、片足立ち時間、膝伸展最大筋力、股関節屈曲最大筋力、足関節底及び背屈最大筋力、椅子からの立ち上がり運動時の身体重心(COG)の最大速度と平均速度の群間比較が行われています。2回以上の転倒経験がある群に他群との有意差が見られたのは、ADLと転倒リスク検査の2つの質問紙得点と、椅子からの立ち上がりCOGの最大速度と平均速度の4つの変数でした。これらの結果より、各身体部位の筋力や歩行のような単純な運動では転倒リスクの予測には繋がらず、日常生活で実施する様々な運動・動作の複合的なものや、全身を使用したダイナミックかつ複雑な運動を評価することで転倒リスクの予測ができることが考察されています。転倒リスクには、転倒経験からの恐怖といったような心理的側面も大きく関与するため、心理的側面も考えながら興味深く論文を拝見しました。
2014年3月19日(水) No.46
MacMahon, C., & Charness, N. (in press). Focus of attention and automaticity
in handwriting. Human Movement Science. doi: org/10.1016/j.humov.2013.12.005
<コメント>注意焦点と運動パフォーマンスの関係を調べた新しい研究になります。利き手と非利き手を用いて、書き慣れている字(名前)と書き慣れていない字(ランダムに選ばれた単語)を書かせる書字運動を課題として使用しています。二重課題法を用いて音の高低を聞き分けながら課題を行う外的注意条件、音が鳴った際にペンの動きが上か下かを判断しながら課題を行う内的注意条件、音が鳴った際にペンの位置がどこにあるかを判断しながら課題を行う外的スキル注意条件の3つ注意条件が設定されています。パフォーマンスの指標には、書かれた字に対して複数の人がきれいさの評価を行う方法を用いており、その評価を数量化しています。結果として、利き手では書き慣れている字と書き慣れていない字に関わらず、外的注意条件が他の2条件に比べてきれいに字が書けていますが、非利き手では3条件間に差はありませんでした。サッカーのドリブルを課題とした先行研究との比較が考察ではなされており、利き手に関しては同様な結果が得られましたが、非利き手に関してはサッカードリブルでは内的注意がパフォーマンスに対して効果的であり、そのような結果とこの実験結果との違いが考察されています。非利き手での書字は全く不慣れな課題であり、非利き足でのサッカードリブルは少しは慣れている課題であることが理由として挙げられています。またこの研究ではパフォーマンスの指標として字のきれいさのみを評価していますが、筋電図やキネマティクスのよう背景メカニズムを調べる必要性も提案されています。目的、独立変数と従属変数の設定などの方法、および結果が非常にシンプルな研究ですが、先行研究の流れを汲んで、先行研究を支持する点と異なる点を明確に示し、論考している点が、独創性として評価される研究のように感じました。
2014年2月21日(木) No.45
Mesagno, C., & Hill, D.M. (2013). Definition of choking in sport: Re-conceptualization
and debate. International Journal of Sport Psychology, 44, 267-277.
<コメント>以前にも紹介しましたが、昨年のInternational Jounral of Sport Psychologyの第4号は「あがり」研究の特集号となっています。本論文はその巻頭論文になり、「あがり」の定義に関して先行研究をベースにレビューされています。これまでの定義の問題点としては、@パフォーマンスの急激な低下に対する原因がひとくくりにされていること(疲労、怪我なども含まれてしまう)、A一時的に不安が高まることによってパフォーマンスの低下が引き起こされるという説明がなされていないこと、B「あがり」というとメディアでは過度なパフォーマンス低下と捉えられるが、学術研究では僅かなパフォーマンスの低下も含んでいることを挙げています。そして今後の「あがり」研究に対して
"choking as an acute and considerable decrease in skill execution
and performance when self-expected atandards are normally achievable, which
is the result of increased anxiety under perceived pressure" という新たな定義が提案されています。また今後の「あがり」研究では、パフォーマンス低下の度合をしっかりと検討していく必要性が最後に述べられています。
2014年2月12日(水) No.44
Domingo, A., Klimstra, M., Nakajima, T., Lam, T., & Hundza. S.R. (2014).
Walking phase modulates H-reflex amplitude in flexor carpi radialis. Jounral
of Motor Behavior, 46, 49-57.
<コメント>四肢間の神経結合(interlimb neural communication)の概念の基、下肢運動に連動して上肢筋のH反射が変化することや、上肢運動に連動して下肢筋のH反射が変化することが先行研究では明らかにされています。この研究ではウォーキングによる下肢運動の位相の違いに連動して、上肢筋から導出したH反射が変化することを明らかにした点がオリジナリティーと言えます。10名の実験参加者にトレッドミル上でのウォーキングを実施させ、その際に両脚の様々な位相において前腕屈筋(FCR)からH反射を導出しています。結果として、遊脚期や立脚期の真ん中のタイミングにおいて、FCRのH反射振幅が小さくなることが示されています。自分の研究への応用性を考えると、運動中の筋からH反射を誘発することは刺激の定常性の低下などの方法上の問題を多く有するため、下肢運動を行う際に安静にしている上肢筋よりH反射を誘発し、上肢筋のH反射から下肢筋を支配する反射機能を推測することも可能ではないかというヒントをいただきました。H反射を記録する研究としての実験方法の精密さもとても勉強になりました。
2014年1月21日(火) No.43
Richardson, A.K., Hughes, G., & Mitchell, A.C.S. (2012). Center of
pressure excursion duirng the golf putting stroke in low, mid and high
handicap golfers. International Journal of Golf Science, 1, 127-138.
<コメント>世界ゴルフ科学会(World Scientific Congress of Golf)より2012年からInternational
Journal of Golf Scienceという学術誌が発刊されるようになりました。自然科学系から人文・社会科学系まで幅広い研究を対象としているため、ゴルフに関すると論文という決まりはあるものの、著者が専門とする研究分野は様々です。しかしながら、ゴルフ好き、かつ修士課程や博士課程における実験研究においてゴルフパッティング課題を取り扱ってきた自分にとっては面白い論文が目白押しです。この研究では、ハンディキャップの少ないゴルファー(上級者)、中程度のゴルファー(中級者)、多いゴルファー(初心者)の3群を設け、パッティング課題をするときの重心動揺として足圧中心(COP)が測定されています。結果として、身体の矢状面に沿った前後方向の動揺が上級者ほど小さいことが報告されています。来年度の私の研究では、ゴルフパッティング課題を用いて、心理的プレッシャーが重心動揺に及ぼす影響をこの研究と同じようにCOPを記録することで検討する研究計画を立てています。その研究計画を行う上でも、非常に参考になる論文でした。
2014年1月14日(火) No.42
Beckmann, J., Gropel, P., & Ehrlenspiel, F. (2013). Preventing motor
skill failure through hemisphere-specific priming: Cases from choking under
pressure. Jounral of Exprtimental Psychology: General, 142, 679-691.
<コメント>プレッシャーによるパフォーマンス低下の対処に関する斬新なアイデアと結果を報告している論文を発見しました。プレッシャー下では内的注意が増加し、言語野を中心とした左側頭野の活性が増加することや、運動スキルの学習の初期段階には左半球の活性が高く、スキルの習熟に伴って右半球優位な活性に変化するという先行研究を応用し、プレッシャー下で運動スキルを遂行する際に右半球の活性を高めることでパフォーマンスの低下を防げるのではないかというアイデアで研究がスタートしています。右半球の活性を高める方法も非常に実用的で、運動開始直前に左手で柔らかいボールを30秒ほど握るという方法を利用しています。細かな実験方法は割愛しますが、サッカーのPK(Exp1)、テコンドーのキック(Exp2)、バドミントンのサーブ(Exp3)の3つの運動課題を用いて、3つの実験の全てにおいてこの方法によってプレッシャー下でのパフォーマンスの低下が防げることが実証されています。この克服法にどのような中枢メカニズムが関わっているかは不明なため、脳波等を用いて検証する必要があることや、パワーやスタミナが必要な運動課題では適用が難しいことなども考察されています。私的には、この研究では利き手足を対象としていますが、非利き手足の運動スキルへの影響も、IHI(Interhemisphic Inhibition)の貢献も考慮しながら、さらに展開できる研究ではないかと感じました。
2014年1月7日(火) No.41
Gray, R., Allsop, J., & Williams, S.E. (2013). Changes in putting kinematics
associated with choking and excelling under pressure. International Journal
of Sport Psychology, 44, 387-407.
<コメント>昨年のInternational Journal of Sport Psychogyの第4号は、プレッシャー研究の特集号となっています。そのなかの1つの論文であり、プレッシャー下でゴルフパッティングを実施する際のキネマティックな変化とパフォーマンス結果(ボールの停止位置)の関係を調べています。これまでの我々の一連の研究では、プレッシャーの影響でパッティング動作が小さくなり、遅くなるなどのキネマティックな変化が生じることを証明してきたのですが、それに伴いどのようなパッティングのエラーが生じるかまでは明らかにしていないという盲点がありました。この研究ではこの盲点をクリアにしており、バックスイング時間の短縮やインパクト速度の増加、ダウンスイングにおけるピーク速度出現の早期化がボールの停止位置の誤差の大きさと正の相関があることを示しています。裏を返せばこのようなキネマティックな変化が起きなかったり、反対の動作変化(バックスイング時間の増大、インパクト速度の減少、ダウンスイングにおけるピーク速度出現の遅延化)が起きている実験参加者は、パフォーマンスが向上もしくは維持されることを意味します。序論や考察において、プレッシャー下でパッティング動作の変化が起こる理由としてこれまで我々が提案してきた、運動ストラテジーの変化の関与に加えて、バックスイングが小さくなる現象を基に、オンライン調整による運動制御を利用しなくなることを提言している点も興味深いものでした。
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