福井大学教育地域科学部 田中美吏研究室      Sport Psychology & Human Motor Control/Learning Lab.
研究室ゼミ

本研究室の業績紹介(共同研究や共同執筆も含む)(過去の履歴)
【総説論文】
田中美吏(2014)心理的プレッシャー下におけるゴルフパッティング:症状と対処に関する実験研究.体育学研究,59,1-15.
<コメント>現在に至るまで約半世紀にわたって、心理的プレッシャーと運動パフォーマンスに関する多くの研究が国内外で実施され、報告されています。プレッシャーの克服が全世界のアスリートが抱える大きな心理的問題であることの裏付けとも言えます。このように多大な研究があるが故に、多種多様な結果が報告されており、1つ1つの論文内で記述されていることに関しては理解が得られるものの、もっとマクロな視点から心理的プレッシャー下での運動行動を把握することが難しいという問題が存在しています。この問題を整理しようと考えたのが、この総説論文を書くにあたっての着眼点でした。そこでこの総説論文では、取り扱う論文をある1 つの運動課題に絞ることで、運動課題の相違という要因を除外した中でプレッシャー下における運動行動を幅広い観点から体系的に可視化することを目標としました。1992年を皮切りにゴルフパッティングを運動課題とした論文が、実験的手法を用いた研究内で35編と最も報告数が多く、これら35編を時代の変遷に対応させる形式で、@注意焦点や注意容量といった観点からプレッシャー下でのパッティングパフォーマンスの低下を説明する研究(1990年以降)、Aプレッシャー下でのパッティングにおいて心理面、生理面、行動面に生じる症状を報告する研究(2000年以降)、Bプレッシャー下でのパッティングのミスを防ぐための対処法を実証する研究(2010年以降)の3 つに区分し、まとめています。ゴルフパッティング以外の運動スキルに対しても適用可能な話題であるため、様々なスポーツ種目の選手や指導者、ならびに体育学分野の研究者や大学院生・学部生が心理的プレッシャー下におけるスポーツパフォーマンスを幅広い視点から体系的に知る際のツールとして本論文を利活用していただけることを願っています。

【共同研究原著論文】
田中ゆふ・関矢寛史・田中美吏(2013)投球動作前の確率情報を伴う球種予測に顕在的・潜在的知覚トレーニングが及ぼす影響.スポーツ心理学研究,40,109-124.
平成26年度日本スポーツ心理学会最優秀論文賞受賞論文
<コメント>昨年の9月にスポーツ心理学研究第2号に掲載された論文になります。対戦相手が存在するようなスポーツ種目においては自身の運動スキルとともに、対戦相手の動作や行動を読む予測スキルが非常に重要であることが多くの研究から自明となっています。この予測スキルを強化するために、対戦相手の動画を繰り返し視聴する知覚トレーニングという方法があり、知覚トレーニングによって予測スキルが高まり、実場面でのパフォーマンスも向上することが知られています。しかしながらスポーツの実場面を考えると、純粋に対戦相手から得る情報だけではなく、過去の経験、監督・コーチからのアドバイス、試合状況の文脈なども予測に影響し、これらの様々な情報の干渉があるなかで的確な予測をすることが求められます。知覚トレーニングに関するこれまでの研究では、このような先行情報の影響を検討したものが皆無で、この研究ではこの点にアプローチしていることが、研究目的の新規性と言えます。野球の打撃において相手投手の情報からストレートかカーブかを予測する課題を用いて、投手の投じる球種の確率情報(60%と80%)がある状況においても、知覚トレーニングによって予測スキルの強化が図られることが実証されています。知覚トレーニングの方法に関しても、投手のもつ予測手掛かりに関する教示を受けながら反応する意識的なトレーニングとともに、そのような教示はなしに直感的に反応する無意識的なトレーニングのポジティブな効果も提案されています。